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ハード:Playstation Portable
メーカー:日本ファルコム
発売日:2012.07.26
ジャンル:アクションRPG
実勢価格:500~1,000円(中古価格)

評価:★★★★

那由多の軌跡

●プロローグ
 広大な海に無数の島々が連なる多島海「シエンシア海」の中央に位置する「残され島」。この近海では、空から流星や遺跡が降ってくる不思議な事象が度々発生している。
 流れ星の落下地点では「星の欠片」と呼ばれる不思議な鉱石が発見されることがあり、その鉱石に特別な光を当てると、幻想的な別世界のような光景が内部に映し出される。人々はその世界のことを「ロストヘブン」、”失われし楽園”と呼んだ。

 残され島出身でシエンシア海に面する港町サンゼリーゼの学院に通う少年ナユタ・ハーシェルは、夏休みを利用して4ヶ月ぶりに故郷である残され島に帰ってきた。ナユタは父の影響でロストヘヴンに憧れ、未知のものへの強い興味と好奇心を持っていた。
 共に里帰りした幼馴染のシグナ・アルハゼンとともに街の困りごとを解決する「便利屋」の活動をすることにした矢先、残され島のすぐそばの岬に過去に例のない大型の遺跡塔が落下する。塔の中を2人で探索すると、最上階には小さな妖精のような女の子が倒れていた。そこに突然現れた謎の黒衣の男「ゼクスト」と仮面の剣士。
 妖精「ノイ」が語る”わたしたちの世界”《テラ》に踏み込んだナユタは、気候が変わり崩壊していくテラを救いロストヘヴン・世界の果ての秘密を知るため、ノイと共に行動を共にすることとなる。

●ストーリー・概要
 日本ファルコムのストーリーRPG「英雄伝説 軌跡シリーズ」の1作で、シリーズ唯一のアクションRPGとして発売された作品。空~閃の軌跡までで舞台となっているゼムリア大陸とは全く別の世界を舞台とし、一部登場キャラを除き他シリーズ作品との繋がりはないとされる。同社のアクションRPG「ツヴァイ!!」シリーズのスタッフが制作を担当しているとのこと。

●ステージクリア型で短いプレイがしやすい作り
 アクション部分はマップからステージを選んでクリアしていくステージクリア型を採用。1ステージにかかる時間が短く終わったらすぐにセーブが出来るので、短い時間での持ち歩きプレイに対応したPSPらしい作りと言える。
 1つのマップは最大で4つの季節に切り替えることが出来るようになり、季節が変わると基本の地形は変わらないがルートが大きく変わるなどほぼ別マップのような装いに。季節を切り替えることで時間を進めてミッションを達成するサブクエストも豊富に用意されており、四季のシステムを上手く生かした作りになっている。

 ステージをクリアすると、「ステージをクリア」「大晶石・宝箱をすべて入手」「ステージごとに決められたミッションをクリア」の3つの判定で★がもらえ、1ステージにつき最大で3つの★が得られることとなるが、この★の数を貯めていくことで様々な新しい技を覚えることが出来る。

●簡単操作でたくさんのアクション・ギミック
 武器を切り替えての攻撃(○ボタン)とノイの魔法攻撃(□ボタン)、ジャンプ(×ボタン)、回避(△ボタン)を基本とするアクションで、操作は簡単ですぐに覚えられる。途中からはガードや剣技を覚えることが出来るようになるが、順序立てて増えていくのでスキルアップを実感しながら進めることが出来る。
 上述の通り、ステージクリアで手に入る★を貯めることで新しい技を覚えられるが、★が埋まってなければ何とか埋めたいと思うわけで、それがプレイヤースキルの向上→スキルが上がって新しい技が覚えられるとうまい具合にリンクするのはさすがの作りだと思った。覚えられる技もせいぜい2ボタン利用くらいで難しいものはない。
 普通に育てているとナユタの通常攻撃だけで十分強いので、ノイの魔法攻撃を必要とする場面がそれほど多くないかなとは思ったが。

 ストーリー途中からは特殊能力「ギアクラフト」を使ったステージギミックが追加される。固い敵への攻撃や障害物に有効な「ギアバスター」・空中の歯車にぶら下がって移動する「ギアホールド」・崖を駆け上がる高速移動「ギアドライブ」・球状のバリアを貼り沼などの場所を浮いて移動できる「ギアシールド」の4種類あり、うまく使い分けて進まないと手に入らないアイテムや大晶石が数多くある。

●音楽・グラフィック
 グラフィックは、日本ファルコムのPSP作品の中では間違いなくトップ。イースシリーズはそれほどグラフィックに特筆する作品ではなく、PSPの軌跡シリーズも全般的にグラフィック推しではなかったが、この作品はキャラの頭身が上がり表情も豊かに、四季で表現される各種ステージのグラフィックも上質。
 横に近い斜め前からの視点なのでキャラが大きく表示されてグラフィックの良さがなお際立っていた半面、手前奥の感覚がつかみにくく、足場をジャンプして移動するようなタイプのステージとの相性はちょっと悪かったように思う。PSPの画面の大きさ・解像度を考えると仕方ない部分なんだろうとは思うけど。

 音楽もさすがの出来。この手のゲームとしては曲数自体60曲とかなり多いが、各大陸各季節ごとに変化するBGMはどれも高水準。特に第3・第4の季節BGMがどれもこれも良い。「白銀の樹氷」「龍河の黄昏」「紅の賛歌」など…。一部イースっぽいな?とか軌跡っぽいな?というのがあるが、まあ双方のエッセンスが入ったゲームなので仕方ないところだろう。

●「軌跡シリーズ」を名乗ってしまったことが…
 もともとファルコム側で「従来の軌跡シリーズから舞台、登場キャラを一新」とは提示していたわけだけども、実はその前段には
 ”「空の軌跡→零&碧の軌跡」で舞台、登場キャラを一新したことで、新たに軌跡シリーズに触れるユーザーが加速的に増えました”という説明になっていて、(→公式HP・那由多の奇跡とはを参照)そのあと”那由多の軌跡では、同じように舞台、キャラを一新”と続く。

 空の軌跡→零&碧の軌跡は舞台や登場キャラは違うが、それぞれゼムリア大陸の中の国・地域を舞台とする同じ世界観の作品であり、今回の那由多の軌跡のように世界から全く違うわけではない。ただ、この説明だけを見ると「なるほど、空→零碧のように、同じゼムリア大陸を舞台とした別軸の作品なのか…」と思ってしまうユーザーも多かったんじゃないかなと思う。
 主人公のナユタと同姓のキャラが後の作品に登場したり(トワ・ハーシェルetc)、零碧に登場したみっしぃが登場したりと軌跡シリーズをアピールしていたように感じるが、変に絡ませたことが逆効果だったような…

 軌跡シリーズに求められているのは同じ時間軸で多方面から描かれる壮大なストーリーだと思うんだけど、「サクサクと気軽に遊びたい」「戦闘に時間がかかりすぎる」(ファルコム近藤氏のインタビュー記事より)というユーザーがそこまで多かったのか、軌跡シリーズ一番とも言えるポイントを削ってまでの要素だったのか、正直言ってちょっと疑問。
 新しいチャレンジをしたかったのはわかるんだけど、それなら軌跡の名を外すか、せめて外伝にするべきだったのでは?と率直に思ってしまう。ただ、もしこれが軌跡を名乗ってなかったらどうだったのか、果たして10万本越えの販売数は達成できたのか?と考えると、繋がりを持たせたかった気持ちもわからないでもない。複雑ですね。

●総評
 名前で損したとしか言いようがないが、幅広いプレイヤーが楽しめる完成度の非常に高い作品。軌跡シリーズプレイヤーには軌跡シリーズと思わず、日本ファルコムの新しいアクションRPGとしてプレイして頂けると良いのではないかと思う。