[Data]
ハード:Playstation Vita
メーカー:スクウェア・エニックス/Tokyo RPG Factory
発売日:2016.02.18
ジャンル:RPG
実勢価格:1,500~2,000円(中古価格)

評価:★★★

[Review] 2017.07.04

いけにえと雪のセツナ

●あらすじ
 その島には、古来より伝わる習わしがあった。
 十年に一度いけにえを捧げ、魔物被害を抑制する。このいけにえの儀式により、かろうじて島の平穏は保たれてきた。
 ところが、次の儀式の年を待たずして、魔物被害が急増し始めたのだ。
 事態を重く見た島の人々は、例外ではあるものの再度いけにえを捧げることで魔物たちを鎮めようと考えた。
 いけにえの名は”セツナ”。極めて高い魔力を持つ十八歳の少女。
 いけにえの儀式が行われる「最果ての地」へ、”セツナ”は護衛隊とともに旅立ってゆく-。

●概要
 スクウェア・エニックスが2015年に立ち上げたRPG専門スタジオ「Tokyo RPG Factory」の第1弾作品。「あの頃、みんなRPGに夢中だった。とりもどそう。ボクたちのRPG」をコンセプトに1990年代のRPGをオマージュして作られ、1990年代スクウェア色、特に「クロノ・トリガー」の影響が色濃く出ている。
 PS4とのマルチプラットフォームのタイトルとして発売され、およそ1年後にNintendo Switchのローンチタイトルとして移植発売された。他にもPC版としてSteamでの発売もされている。

●高いグラフィック水準・ピアノ主体の音楽
 全編雪に覆われた世界を舞台とし、グラフィック水準は相当高い。深い雪を踏みしめていくと跡が出来て時間が経つごとに積もる雪で薄れていく様・重みで木の枝から雪が落ちていく様・雪の世界に映えるオレンジの光・降りしきる雪のグラフィックも見事。どこかで雪が解けた舞台もあるのかなと思っていたら全くなかったことにはちょっと驚いたが。ゲーム中で使われる字体もRPGでは珍しい明朝系のもので、こちらも全体の冷たい空気感とあった素晴らしい選択のように思う。
 音楽はほぼピアノのみで構成されるこれまた珍しい作りだが、グラフィックとぴったりマッチしていて素晴らしい空気感を作っている。最初モルの港から始まり、フィールドに出た時の音楽からいきなり聞き惚れてしまった。ほぼピアノしかないというところには賛否あるようだけど、個人的には非常に好きなところだ。

●強く漂うクロノ・トリガー感
 戦闘の基本システムとなる「アクティブ・タイム・バトル2.0」をはじめ、そこかしこに感じるクロノ・トリガー感が凄い。戦闘だけでも前述のATBに加えて技(魔法)の内容や2名以上で使う「連携魔法」もクロノで使われていたものが多く採用されている。一部魔法に範囲指定がついているところもクロノ同様。
 アイテムや武器でもクロノに登場したものが数多く出ているし、序盤から開けられない宝箱が各地に点在しているのもそう。フィールドがエンカウントなしのミニマップになっているところまで持ってきている。オマージュはよくわかるんだけど、いくら何でも同じ作品から持って来すぎでは?と思わなくもない。
 ちなみにストーリーについても進めていくと時間の概念に話が進んでいくので、ここも意識したんだろうと思われる。

●戦闘(刹那システム・シンギュラリティ)
 ATBについては先に書いた通りだが、本作品オリジナルの要素としては「刹那システム」がある。攻撃などの行動や待機時に溜まってゆく「SP(刹那ポイント)」を消費して発動する追加攻撃および追加効果のことで、攻撃開始時にタイミング良く□を押すことで発動する。通常攻撃時・魔法発動時などに使用でき、追加攻撃や魔法の威力増大など行動によって効果が異なる。
 もう一つは、戦闘中ランダムで発生する特殊効果「シンギュラリティ」。ATBが貯まりやすくなる、クリティカル発生率増などの効果が一定時間発動する。一種のボーナスタイムとでも言えばいいか。発生条件などはわからないので出たらラッキーくらいのもので、期待して使えるようなものではない。(クオンの技で強制発動させるものはあるが種類は選べない)

●法器・法石システム
 今作での技や魔法はすべて「法石」を装備して使う。法器は従来作品でいう「アクセサリ」に近い装備品だが、装備した段階で付与される効果のほかにそれぞれ「昇華効果」というものが付いている。法器を装備した状態で法石の技や魔法を「刹那システム」で発動させると、一定確率で法器についている効果が宝石に付与される(昇華)という仕組みになっている。
 例えば、消費MPを少なくさせる効果「消費MP」が昇華効果としてついている法器を装備した状態で戦闘中「サンダー」を刹那システムで発動していると、戦闘終了後一定確率でサンダーに「消費MP」の効果を付与するかどうかの選択画面が出てくる、という形だ。

 いろいろな効果を自分の好きに付与できる(1つの法石に10個まで効果を付与できる)ので、いろんなカスタマイズが出来るというのがこのシステムのウリなんだろうが、前提の面倒さに比べて効果が実感しにくく、あまり深くは使わなかった。使わなくてもそれほど難易度に影響しないというのも大きかったし、もう少しキャラ強化の中で必要だという意味合いのシステムにできなかったかなと。

●ドロップアイテム
 上記の「法石」は全て敵から手に入るドロップアイテム(素材)を各地にいる「魔道商会」に売却することで交換できる仕組み。敵1体から手に入るドロップアイテムは最大12種類と多く、この分類は「敵をどのように倒したか」によって分かれている。
 残りHPにほぼジャストで倒すと「ジャストキル」・大幅に超えたダメージを与えて倒すと「オーバーキル」・刹那システムで倒すと「セツナキル」・連携技で倒すと「リンクキル」・状態異常攻撃で倒すと「デバフキル」・属性攻撃で倒すと「ファイアキル」「ウォータキル」などが発動し、この「~キル」によって取得アイテムが分かれる。攻撃によっては複数のキルが同時に発動する場合もあり、その場合該当するすべてのアイテムが一気に手に入る。

 この手の素材収集要素は他のゲームにもあるが、ほとんどが「武器防具」などに使われることが多いので、魔法取得に絡めてくるというのはなかなか斬新だった。

 ドロップと言えば、フィールドマップやダンジョン内にある光る場所で○を押すとアイテムを入手できる「光るポイント」という要素もある。フィールドでは料理に使える食材を、ダンジョン内では遺物アイテムなどが入手でき、入手アイテムのコンプリート要素による経験値獲得もある。

●処理落ち・フリーズ・ロード問題
 Vita版の本作ではどこでも言われているのがこの問題。まずロード時間は確かに長く、町からフィールドに出るのに10秒近くは待たされる。町の中で家に入るときでもおそらく3~4秒はかかっているだろう。
 PS時代あたりではこのくらいのロード時間を要するゲームもザラにあり、画面切り替えだけなら許容範囲というプレイヤーも一定数いるとは思うのだが、メニューを開いて項目を選んだ際や、店での購入時にアイテムリストを出すときにまでロード時間が発生するのはさすがに問題ありかと思う。

 処理落ちについては、戦闘では少しエフェクトがかかるとほぼ処理落ち。イベント発生時もパーティ外キャラクターを呼び出すだけで処理落ち。フィールドや街でもエフェクトによっては処理落ち。正直言って、処理落ちに関してはほぼ全編で起こっていると言ってもいいくらい頻度が高く、これが当たり前だと思っててPS4版の動画を見て滑らかな動きに驚愕したくらいだ。
 フリーズについては、読み込みの際にそのままの状態でストップしてしまうことが何度か発生。こまめにセーブしていればいい話ではあるが、今作ではイベントスキップなどがないので同じイベントを見せられる羽目になったりはした。

 一番影響が大きいのはやはり処理落ちか。特に戦闘時は目押しに近い「刹那システム」と処理落ちとの相性がすこぶる悪く、処理落ちでタイミングが取れずに刹那が発動しないことが当たり前のように起こる。Vitaの性能上どうしようもなかったのか定かでないが、基本のゲームシステムにすら影響を及ぼすレベルのものは発売前に何とかしてほしかったというのが本音。

●ストーリー
 いけにえというものに精一杯立ち向かっていく展開は盛り上がりに欠けるものの今までにないもので良かったと思うが、終盤いろいろ明かされてからは説明不足と描写不足で?マークが灯るところが出てくる。
 特に、主人公エンドが何者なのかが結局わからないままというのは気になるポイントだった。いろいろ考えていくと、おそらく”プレイヤーの介入”という意味なのかな?と思うんだけども、仮面の男で…傭兵稼業を生業とする一族で…みたいな情報がゲーム内でもたらされてしまいエンドというキャラクターがそれなりに確立してしまっており、=プレイヤーとはなかなか感じられず。エンドがなぜこの重要な役回りに?という根本部分がわかりにくい印象がある。
 おそらくそのあたりをカバーする意味合いもあって、会話の中でセリフを選ばせるところがいくつもあるんだと思うのだが、結果選んだところでその後の会話が少し変わるだけでストーリー進行自体には一切影響がなく、意識付けとしては上手くいっていない感がある。

 表現が難しいんだけども、昔の主人公=プレイヤーというゲームは貰える情報が明らかに少なくて、レールがほぼ引かれていない状況を自分で探っていくからこそ=の意識になるのかなと。今作のように進行が一本道で完全にレールが引かれている状況だと、プレイヤーが中に入り込むという作り方は難しいのかなーと何となく思う次第。

 あと、ストーリーを「読ませる」というところで見ると、明らかな誤字脱字が数ヶ所見受けられたのは残念というか引っかかったというか。

●総評
 昔に回帰しながら、でもなぞってばかりではなく新しいものを…という、なかなか難しいコンセプトで作られた作品かと思うが、ゲームとしてそれなりに楽しめたものの、パンチ力に乏しい作品であったようにも映る。
 Vita版に関しては先に書いた通りの処理落ちやらロードやらがさらに大きく足を引っ張ったことは間違いなく、Vitaプレイヤーならぜひ、とは正直言えない内容だ。PS4版ならサクサク進めるだけでも大きく違うだろうけども。