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ハード:Playstation 3
メーカー:日本ファルコム
発売日:2013.09.26
ジャンル:ストーリーRPG
実勢価格:400~700円(中古価格)

評価:★★★★

英雄伝説 閃の軌跡

●プロローグ
 ──《エレボニア帝国》。
 ゼムリア大陸西部において最大規模を誇るこの旧き大国では近年、2つの勢力が台頭し、国内における緊張が高まりつつあった。
 一つは《貴族派》──「四大名門」と呼ばれる大貴族を中心とし、その莫大な財力によって地方軍を維持し、自分たちの既得権益を守らんとする伝統的な保守勢力。
 もう一つは《革新派》──平民出身の「鉄血宰相」を中心とし、巨大な帝都や併合した属州からの税収によって軍拡を推し進め、大貴族の既得権益を奪わんとする新興勢力。

 両者の立場はどこまでも相容れず、その対立は水面下で深刻化し、皇帝の仲裁も空しく、帝国各地で暗闘が繰り広げられるようになっていた──。そして、それは帝都近郊にある伝統的な士官学校でも同じだった。

 ──《トールズ士官学院》。
 帝国中興の祖「ドライケルス大帝」によって創設され、身分に囚われない人材育成を目指してきたこの士官学校においても、貴族派の理事と革新派の理事が対立を深め、生徒たちに影響を与えていた。
 あらゆる面で優遇され、また実力も兼ね備えた白い制服の貴族生徒たち。優秀ながらも下に見られ、理不尽感を抱き続ける緑の制服の平民生徒たち。制服の色や学生寮が違うことも相まって、両者は事あるごとに反発しあい、学業成績や武術訓練、クラブ活動などでも火花を散らし合うのだった。

そんな中、地方貴族の息子、リィン・シュバルツァーはトールズ士官学院への入学を果たし、帝都近郊の街トリスタを訪れる。
季節は春──白いライノの花が舞い散る中、リィンは気付く。自分の着た制服が、貴族生徒や平民生徒の制服の色と違うことを。
少数ではあるが、同じ「深紅の制服」を着た生徒たちがいることを。

そして学院の鐘が鳴り、始まる入学式──偉丈夫の学院長の堂々たる挨拶が終わり、若き女性教官が壇上に立つ。

「赤い制服の子たちは集まりなさい」
「これから特別オリエンテーリングを始めるわ」

それが──波乱に満ちたリィンたち《VII組》の学院生活の幕開けだった。

●概要
 日本ファルコムのRPGシリーズ「英雄伝説」第8弾。ゼムリア大陸の各地を舞台とする軌跡シリーズとしては6作目の作品となる。空の軌跡ではリベール・零/碧の軌跡ではクロスベル自治州と舞台を移してきた今シリーズだが、今回はカルバードと並んで2大大国として度々登場してきたエレボニア帝国内が舞台となる。

 2D表現による見下ろし視点だった今までから今回からはフル3Dによるグラフィックになり、視点もいわゆる操作キャラの後ろから観る形の三人称視点に。これにより、360°のフリーカメラ操作が可能になった。

●ストーリー
 「遊撃士」「クロスベル警察」ときて、今回の主人公は「トールズ士官学院の学生」となった。今作では入学からおよそ7か月間を舞台とし、彼らの学生生活を追いながら、エレボニアの抱える問題点やその中で生まれる様々な陰謀に迫っていくことととなる。
 これまでの作品をプレイしているとところどころでエレボニアに関するストーリーや出来事が散らばっているので、断片的でしか見えていなかったエレボニアが細かく見えてきて面白い。特に碧の軌跡とは時間軸がほぼ同じなので先にプレイしておくことを推奨したい。
 テーマからして仕方ないところはあるんだが、特務支援課として激動のど真ん中にいたロイド達とは違って、「特別実習」という形で断片的にいろいろな地域を見ていくリィン達とは緊迫感が異なり、さすがに碧の軌跡ほどの緊迫感は最終盤以外味わえないが、少しづつ歪みが見えてくる様はわかりやすくて良い作りになっていると思う。

 ストーリーの間には「絆イベント」と呼ばれるキャラクターたちとの交流イベントもあり、学園ものアドベンチャーを彷彿とさせるような作りにもなっている。好きな人は好きだろうな、という感じ。
 零/碧のロイドが全方位から好かれるかなりのハーレムキャラクターで「攻略王」とまで揶揄される人物だったが、今作のリィンはそれをさらに上回る”ギャルゲー主人公属性”であり、開始直後落ちるアリサを助けようとして下敷きになり胸に顔をうずめるところから始まり、エマの巨乳が気になってみたり、意図せず女の子の頭を撫でてフラグ立てしてみたり。ちょっと悪ノリしすぎではと思わなくもないが…

 空・零と同じく今回もいわゆる「続きもの」作品ではあるのだが、空ではFCの時点でクーデターは一通りの解決を見ていて、零の軌跡でもD∴G教団の一連の事件はとりあえず解決している。
 そういった意味で、残った謎はいろいろあるがいったん解決してからの続編というのが今までだったのだが、今回の閃では「全く解決しないまま続編」という形に。DISC1終了くらいのイメージになっており、この終わり方はさすがにどうだろうと思ってしまった。

●サブイベント
 シリーズおなじみのサブイベントは、生徒会の依頼を代理でこなすという形で今回も続行。サブイベントをこなすことでポイントがもらえてランクアップするというのも従来作品と同様だ。
 前作の「推理を当ててポイントプラス」と同じように、今回も「授業中の質問や試験に答えてポイントプラス」の要素があり、エレボニアの歴史問題などに正確に答える必要がある。

 今回から、イベントの発生やイベント内で次にどこに行けばいいかという場所のヒントがマップを開けばすぐに参照できるようになった。これは親切になっただけなのでいいとして、毎度おなじみ怪盗Bのイベントでは、本来文章の内容を読み取ってポイントを当てていくイベントのはずが、マップを開けばポイントが!マークで表示されてしまうほど。親切を通り越して面白さの阻害要因になっている気もする。

●キャラクター
 VII組は最終的に男6人女5人とほぼ半々、あとはサラ教官など一時パーティキャラが数人。全体的に言えることとしては、女性キャラのほうが特化型が多くて強いということか。打撃特化のラウラとミリアム・アーツ特化のエマ・アーツ強+強力な支援クラフトを持つアリサ・スピード特化のフィーとバランス良く分類されており、ハーレムパーティにしておけば基本困らない。
 男性陣は全体的にバランスタイプが多く、HPが高くて打たれ強い半面特化性能は女性キャラにほぼ劣るという感じで、さすが主人公という総合力のリィンと1人連れていけば回復に困らないエリオット以外はどうにもメインパーティに入れにくい。使い方によるのかもしれないが、個人的にはユーシスの器用貧乏ぶりが相当目についた。ノーブルオーダーは使えるんですけどね。

●グラフィック・音楽
 PS3の後期発売ということを考えるとグラフィック水準は決して高いものではなく、正直言ってもっときれいな作品はいくらでも。とはいえ、広大なノルド高原やそれぞれ特徴のある街並みなど、フル3Dになったことでの驚きや感動は大きい。ゲーム内容的に洋ゲーほどの水準はそもそも求められていないと思うし、空・碧/零も同時期のゲームに比べて特別優れたグラフィックでもなかったので、これをデメリットと思うかどうかというところだが。

 グラフィックとはちょっと違うが、今回から移動中にパーティキャラが喋る「アクティブボイス」が追加された。道中様々な会話が入ってくるのでパーティとして動いている感がわかりやすく、良い要素だった。唯一、アクティブボイス中は宝箱が開けられなかったり話しかけられなかったりと、テンポを一部阻害することもあったのは残念。

 音楽は毎度のことながらさすが。さすがにシリーズがここまで増えてくると前に聞いたことある感じだな…という曲も出てくるが。章ボスのテーマ「Eliminate Crisis!」・ガレリア要塞突入時の曲「Atrocious Raid」あたりは文句なしに良かった。ノルド高原の「蒼穹の大地」もずっと聞いていられるタイプの曲でいいですね。

戦闘・クオーツ・クラフト等
 今回も各キャラクターに「戦術オーブメント」を装着して戦う基本部分は変わっていないが、今回は新しく「ARCUS」と呼ばれる新しい戦術オーブメントとなり、今までははめ込むクオーツの属性値合計によって使えるオーバルアーツ(魔法)が異なるという仕組みだったものが、クオーツそのものにアーツが組み込まれる形となった。
 これによって、前作までのように”使いたいアーツに必要な属性値をクリアするためにクオーツをどのようにはめ込むかを計算しながら”…という作業はなくなって簡略化。簡単になった反面あっさりしすぎたきらいもあるが、前作のシステムにさらに新しいことを組み込んで複雑化するとそれはそれで問題だったと思うので、いいタイミングだったのかもしれない。

 今までは属性値上昇に使えた攻撃・魔防などの基礎能力値を上げるクオーツはほぼ使い物にならなくなり、代わりに攻撃時に追加効果を与える「~の刃」「~の牙」系のクオーツの使い勝手が大幅に上がった。しかも異なるラインであれば2つ以上つけられるようになったので、ラインの多い(アーツの不得意なキャラ)にはすべてのラインに同じ刃・牙をつけて付与率を上げるというやり方も可能。
 前作ほどまとめてアーツを覚えることもできなくなったので、今作は物理攻撃にかなり寄った作りのように思える。前作までは最終的にアーツ使いのほうがダメージソースとして強くなる傾向にあったが、今作だと物理やクラフトに頼っても問題ないレベルには強い。

 もうひとつ、今回の新戦術オーブメント「ARCUS」では、キャラクター同士をパートナーで繋ぎ、戦闘中に敵の弱点属性の攻撃を当れることで連続攻撃が発動する「リンク」システムが初めて導入された。前段紹介した絆イベントにも関連するが、各キャラクターごとに有効度ランクがあり、有効度によって発動する技が変化する。

 クラフトについてはシリーズおなじみのもので大きな変更はない。Sクラフト時にはキャラクターの1枚絵が入るなど演出がさらに強化されたくらいか。

 全体的な難易度については状態異常や遅延が効く敵が多いせいもあってか、比較的シリーズの中でも簡単な部類かと思う。まあ、このシリーズはストーリーが後半に進むにつれておかしな強さのキャラが多数追加される傾向にあるので、次回作はさすがにこうあっさりとは行くまい、と思っているのだが。

●総評
 システムが全体的に簡略化されて深く考えなくても進める作品に。ストーリーも含めたプロローグ感が非常に強く、今までも感じていた「いつまで続くんだろうこれ」感は過去最大。結果4作続くわけですしね…